うつ病とは
「うつ病」と聞いてどのような疾患を思い浮かべますか?
「顔色が悪くて、声が小さくて、眠れない、死にたい」
そんなイメージを持つ方が多いのではないでしょうか?
もちろん典型的なうつ病の方は概ねその通りです。
しかし、時に私達臨床医をも惑わす「明るく元気な」うつ病の方が多数居られます。
通常「うつ病」の診断はDSM-Ⅳ(精神疾患の分類と診断の手引き)に従って行われます。
1. 「抑うつ気分」
2. 「喜び・興味の喪失」
3. 「食欲の減退・増加、体重減少・増加」
4. 「不眠または過眠」
5. 「焦燥」
6. 「気力の減退、疲労感」
7. 「無価値感、過剰な罪責感」
8. 「思考力・集中力の減衰」
9. 「死についての思考」
以上、9つの基準のうち5つを2週間以上ほとんど毎日満たすものです。
精神的には元気だけど・・抗うつ剤?
てんかんでもないのに・・抗てんかん薬?
しかし、「抑うつ気分」「気力の低下」「興味の喪失」などがほとんど無いケースで、「頭痛」や「めまい」などの身体症状という「仮面」を被ったうつ病と言う意味で、「仮面うつ病」という状態があります。
実際に良く聞いてみると、「そういえばなんとなくだるい」とか、「朝早く目が覚めるようになった」あるいは「常に少し頭が重い」などの症状を聞き出すことが出来ます。
そのような患者さんに、少量の「抗うつ薬」を始めると、数週間で腰痛などの「身体症状」が劇的に改善します。
もちろんご本人は「うつ病」の自覚はありませんし、「抗うつ薬」を飲む事に抵抗を覚える方が多いのは事実です。
そこが「仮面うつ病」の治療の難しさですが、普通の頭痛薬や鎮痛剤では治らない痛みが続き、しかも画像検査や血液検査でも何も異常が無い、と言う場合は、その可能性を考えてご本人に説明し、少しずつ治療を始めていくことで不要な鎮痛剤漬けにならずに開放されます。
一例ですが、「三環系抗うつ薬」のトリプタノールは、片頭痛、慢性緊張型頭痛の予防薬として、国際的にも広くその効果が認められており、推奨グレードはAランク(有効性が高い)に位置付けられています。
また痛みやめまい、しびれの治療に、「抗てんかん薬」が用いられることもしばしばです。
しかし、「抗てんかん薬」のデパケンRは片頭痛の予防薬として現在健康保険が使用出来るようになるまで、その効果が認められました。
お薬が「もともとは抗うつ剤」「抗てんかん薬」であるので、先入観から「飲みたくない」と考えてしまいがちです。
しかし他の治療薬でどうにも解決しない場合にはこのような治療で奏功するケースも少なくありませんので、ご相談下さい。
参考文献:横谷省治、津田 司、日経メディカル 2008年1月号 p113~p115 「疑うことから診断は始まる」